西端真矢

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香港を断固として支持する 2019/08/22



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今年の夏を憂鬱な気持ちで過ごしている。香港で反政府抗議活動が始まってから2カ月以上が経ち、その波はいっこうに収まる気配がないから。
開始から3週目、林鄭長官が今回の争点となっている法律を「事実上撤回する」と宣言した時、デモは終わるのではないかと期待していた。もしも抗議活動の主体が酸いも甘いも噛分けた中年の市民だったら、本来、中華民族は商売上手の交渉の民であるから、ここを互いの譲歩の一点と見きわめ、矛を収めていたかも知れない、と思う。
けれどそうはならなかった。今回の運動の主体は学生であり、若さは譲歩や交渉を知らない。彼らは香港の政治的自由が完全に保証されるまで、引かないことを決断した。この先一体どこまで対立が長引くのか、もう誰にも分からない。
    *
学生たち、そして彼らを支える香港市民が戦っているのは香港政府だが、その背後に中国共産党がいることは、全世界の人々が知っている。
その中国共産党は、武装警察部隊を香港に間近い街に集結させ、大規模な演習を行い、喉元に銃を突きつけるようにして威嚇を繰り返している。しかし、1989年の天安門事件のように市民に向けて発砲すれば、世界中の非難を浴びて貿易の制裁が行われ、経済に大打撃を食らうことは明らかであり、武力行使の可能性はきわめて低いのではないか、と私は考えている。
すべての中国国民が、腹の底から中国共産党が素晴らしいと思っている訳ではない。何とか今の状態まで国力を、経済を押し上げたから支持しているのであり、皮肉な話だが、“共産主義”の看板を掲げながら、今や経済が共産党のレーゾン・デートル(存在理由)となっている。ここを悪化させれば党の足元が大きく揺らぐことは、私などが書くまでもなく、彼ら自身が一番よく分かっているだろう。

とは言え、香港の要求を呑むことは、譲歩の前例になる。共産党が何より恐れる事態、中国本土で・中国国民が、「デモを強行すれば政府は言うことを聞く」と判断し、活気づき、政治運動の活発化につながっていく可能性は高い。
また、常に激しい政治闘争が行われている共産党中枢では、対立する側に「習主席は弱腰だ」と非難する絶好の札を与えることにもなるだろう。要求を呑むことなど到底出来るはずがない。

だから、共産党中枢にとっては、香港を弾圧することも、香港の要求を聞くことも、どちらも不可能の道。進退維谷、進退窮まっていると言っていいだろう。
このような事態に陥った時、私が習近平主席だったらどうするだろうか?――と考える。当然、持久戦に持ち込もうと考えるのではないだろうか。デモの長期化が香港経済を悪化させ、暮らしを不自由にするのは明らかであり、今は固く結ばれた市民の結束が、内部から崩れていくのを待つ。進むことも引くことも最悪の悪手なのだから、進まず引かず戦うしかない、そう考えるのではないだろうか。
    *
だから、戦いは、持久力の力比べになるだろうし、今現在、既にそうなりつつある。その中で、日本人として強く憂うことは、この国の論壇に香港市民を非難する人々が出始めていることだ。
もちろん、彼らも、日本という自由主義の側にいる人間として、今回の反政府運動の主張自体を非難することはしない。その代わりに彼らが非難するのは、長年にわたり香港市民が中国本土の人々を嫌い、蔑視して来たという事実だ。その事実を材料にして、香港を貶め、日本人の香港支持の空気を転換させようとしている。私にはそう見える。この動きに気をつけてほしい。
確かに、私が中華文化に初めて興味を持った1995年以来、度々香港市民の“中国本土嫌い”“中国本土蔑視”の場面を目にして来た。たとえば返還前、何度も、
「私は中国人ではない。イギリス人だ」
と若い世代が言うのを聞いたし、彼らは、「返還などまったくめでたくない」「中国に復帰したくない」と公言していた。
何て悲しいことだろう、とその時、同じアジア人としてため息をついた。“英国紳士”などとシルクハットのジェントルマンづらをしながらその裏で中国人をシャブ漬けにして莫大な国家利益を上げ、当然のことながらそれに怒って立ち上がった中国人を武力で押さえつけ(=阿片戦争)、まんまと香港を植民地としてせしめた。これ以上ないほどに卑劣だった当時の偽紳士、イギリス。それでも香港の人は、「私はイギリス人だ」と言う方を択ぶ。こんな悲しいことがあるだろうか?
彼らは当時から、香港に流入して来る中国本土の人々を毛嫌いしていた。きったない服を着て粗野でマナーがなってなく、英語も出来ない。底辺の労働者として使い、蔑視していた。
しかし、その後、10年ほどをかけて中国が経済力をつけて来ると、やがてその中国富裕層が香港の不動産を買いあさり、観光に訪れ、香港経済は中国経済に依存するようになった。その変化を、今や形式上は中国国民となった香港市民は苦々しい思いで眺めることになったのだ。
「中華趣味と英国趣味が入り混じった素敵な店、素敵な街角が、中国資本に買い占められ、無味乾燥なビルに変っていく。そしてどうでもいい土産物屋やチェーン店が入る。僕にはもう、香港で、真矢を連れて行きたい場所がない」
そう、香港の友だちが悲し気に言い、私には返す答えが見つけられなかった。
    *
一方、私には、香港で暮らす中国本土出身の友人がいる。仮にLとしよう。富裕層の出身で非常にファッションセンスが良く、現代美術を愛してもいる。英語に堪能でもちろんマナーもわきまえ、香港人と見分けがつかない。けれど、Lは、香港社会に入って行けない、と或る時私に打ち明けた。自分が中国出身だと分かると、香港人は門を閉じるようによそよそしくなり、決して心を開かない。友だちも出来ない、と。
私は香港にアート関係者の友人が多く、Lに紹介したいと思っていた。どちらの側も私の大切な、大好きな、素敵な友人だから。けれど、「真矢の紹介だと言って訪ねてみたら?」と連絡先を教えても、Lは、決して彼らと接触しようとはしなかった。受け入れてもらえないとあきらめていたのだろうな、と今になれば分かる。

今、日本の論壇の一部の人々が非難の材料にしているのは、香港市民のこれまでのこのような行いの数々だ。もちろん、それは褒められたことではないだろう。けれどそこには七十年の歴史の積み重ねがあることを考慮しなければならない。
例えば、私の或る香港人の友人の両親は、中国本土から命からがら、泳いで香港に渡って来た。その親、つまり私の友人の祖父はいわゆる“地主階級”で、文化大革命が始まると激しい迫害の対象になり、最後には紅衛兵に撲殺されて亡くなった。何とか息子夫婦だけは生き延びてほしいと、最小限の荷物を布にくるんで持たせ、彼らはそれを頭に結び、泳いで、香港に渡ったのだ。今の香港の四十代、三十代、二十代はその子や孫の世代なのだ。
もちろん、文化大革命以前から香港に住んでいた人々もいた。その人々は、そうやって中国本土から石もて追われた人々を受け容れて、共存して来た人々だ。今の香港の四十代、三十代、二十代はその子や孫の世代なのだ。
この事実をかっこに入れて、香港に根強くする“中国本土嫌い”を考えることは出来ない。負の感情には必ずその根があることを忘れてはいけない。ましてや、日本という安全地帯にいる人間が、ここぞとばかりにかたき打ちに加担するようにその負の記憶を材料に使い、今、この時、香港の人々が、「自由」という、人間の最も根源的で、最も貴重な権利を追求している、その運動に歯止めをかけることなどあってはならない。香港の自由が結局は、中国の人々の自由につながるということを、どうして忘れてしまうのか?
もちろんほとんどの日本人は、香港の運動に理解と共感を持っている。そう実感しているが、一部に出始めたこのような論調を強く憂う。断固として反対する。
     *
そして、香港の人々に伝えたい。根競べのこの戦いで、決して短気を起こさないでほしい。暴力に訴えないでほしい。ガンジーの非抵抗の戦略が結局は勝利を収めたことを、常に心に留めてほしい。
暴力行為、たとえば中国本土から来港したビジネスマンや取材記者に暴行を働くようなことがあれば、世界は香港を擁護しにくくなる。中国共産党はこれから様々な手を装って挑発して来ることが予想出来るが、その挑発にも決して乗らないでほしい。もちろんこのようなことは、百も承知だとは思うけれど。
     *
香港にも中国本土にも大好きな友人がいる私には、現在のこのような事態は心が引き裂かれるようで、たまらなくつらく、悲しい。それでも、もうこうなったら仕方がない。私は香港を支持する。けれど、だからと言って、中国本土在住、中国本土出身の友人たちへの友情は、これまでと何一つ変わらない。
イニシャルZW、FH、WC、SD、LK、ZY、QS、CG、HDの友人たちへ、今も、これからも、みんなのことがとても好きです。みんなと過ごした楽しい時間は決して色褪せないし、次に世界のどこで会っても、笑って話そう。アートや音楽や映画、文学の話をしよう。美味しいご飯を一緒に食べよう。
     *
日本の人々にも伝えたい。多少とも香港、そして中国と関わりを持っている人間として。
今後香港の事態がどのように推移するとしても、中国国家ではなく、まず、目の前にいる一人一人の中国人を見てほしい。もちろん多くの日本人が常識で理解しているように、中国には善良な人も、聡明な人も山ほど存在する。けれど、彼らの属する社会は、私たちの社会とはまったく仕組みが違うことを考慮してほしい。表立って中国政府の公式見解に反する発言をすることは出来ないことを、理解する必要がある。
もちろん、これまでの愛国主義教育により、政府の公式見解を内面化している人々もいる。その人たちに対しては、根気強く、世界が中国共産党をどう見ているかを伝えていこう。攻撃的にではなく、冷静に、理論的に。彼らの中に長い時間をかけて内面化されたものが、たった一日、一カ月、一年で覆らないのは当然のことだ。私たちも時間をかけて、ゆっくりと、彼らに語りかけていく。彼らが道を歩いている時に、花屋の店先で薔薇の花を選ぶ時に、旅先で船に乗り水の流れを眺めている時に、私たちが伝えようとしていたことがふと頭に上る、そういう風に話しかけていこう。
      *
香港のアーティストの友人が、ある時、自嘲するように言っていたことを思い出す。
「香港でアートを択ぶことは、本当に孤独な道のりだ。香港人は、金、金、金。アートになんか興味を持たない。それでも、自分たちは作り続ける」
確かに香港人は、いつも商売第一の金の亡者だった。でも、それも当然ではないか。彼らは中国で棒で殴られ逃げ出して来たのだ。その棒がまたいつこちらを向いて来るか分からない。最後に頼れるのは自分の金なのだから、金を貯め込むことにこだわるのは当然だ。その彼らが、今、金儲けを棄てて、戦っている。どれほど今回の法令が彼らにとって生命線であるかが、分かる。

香港市民を支持する。
戦い続けるならその戦いを支持する。妥協の戦略を選ぶなら、その選択を支持する。香港市民の決定を尊重し、支持していく。
香港を断固として支持する。

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クロワッサン「着物の時間」にて、浅草辻屋本店の富田里枝さんを取材しました。 2019/08/01



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「クロワッサン」の連載「着物の時間」、今号は長年の意中の人、浅草の履物店「辻屋本店」女将の富田里枝さんを取材しました。

里枝さんと私のご縁は、2013年にさかのぼります。
当時、私は「江戸時代260年間の着物の変遷を、実際に人が着て見せる」という歴史着物ショーを無謀にも一人で企画し、日々準備で不眠不休。その中で、紹介してくださる方があり、里枝さん率いる辻屋さんに履物の提供をして頂けることになったのでした。
私も必死の毎日でしたが、当時の里枝さんも、一度はたたむことになっていた家業のお店を無謀にも「継ぐ!」と宣言し、背水の陣で過ごしていた頃。
あれから6年、私はこの「江戸着物ファッションショー」をきっかけとして、その後順調に和文化関連の執筆のお仕事を出来るようになって今に至り、里枝さんの「辻屋」さんも、里枝さんの代からの新しい“辻屋ファン”をたくさんたくさん獲得して愛され、先祖代々の浅草の地で立派に商売を続けています。
お互いの転機の時期に出会え、ともに成長して来た同志のような存在の里枝さんをこうして改めて取材出来、本当に幸せです。どうぞ皆様、「クロワッサン」をぜひご高覧下さい。
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