西端真矢

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単著『歴史を商う』が出版されました。 2017/06/07



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やっとこのお知らせを出来る日がやって来ました。
初めての単著『歴史を商う』が、先週、発売になりました(本文391頁、雄山閣刊)。
下記は、アマゾンに掲出している内容紹介、つまりは「あらすじ」です。
          *
明治43(1910)年、甲州の片田舎で親に見捨てられ、親族を転々として育った青年が大志を抱き、東京へ出る。
やがて青年は大正5(1916)年、歴史書を中心に書道、刀剣など文化学術書籍を専門に扱う出版社「雄山閣」を創業。その灯は代々、家族、そして日本文化を愛する編集者、著者によって受け継がれてゆく――
関東大震災、昭和モダニズム、太平洋戦争、高度成長、バブル崩壊…激動する社会の荒波に翻弄され、幾度も倒産の危機に直面しながらもいぶし銀のような本を世に問い、文化の灯を守り続けて来た小出版社、百年の物語。
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振り返れば、「我が社と我が家百年の歴史を、読み物としてまとめてほしい」と、版元「雄山閣」の長坂慶子会長から依頼を頂いたのが、四年前。純粋なノンフィクションでも、ノンフィクション小説のかたちでも良い、好きなように書いてくれと言われ、まずはどちらのスタイルを取るかに悩みながら、資料読みが始まりました(最終的に、ノンフィクション小説の形式を選択します)。
主要登場人物の一人が少年期を過ごした山梨の村を季節ごとに訪ね、古本屋で資料を探し、時代の空気感をつかむために地元の武蔵野市立図書館で明治末から大正期の新聞縮刷版をひたすら読み込み‥。出版業界史関連資料を多く収蔵する千代田区立図書館、そして国会図書館には何度足を運んだか分かりません。
何しろ、あらすじにもあったように、学術出版、それも日本史分野を中心に発行する出版社の物語。それなのに誤った史実を書く訳にもいかず、事実の確認に非常に神経を使ったのです。
例えば、登場人物の一人が書き残している手記に*年*月に新宿の****という店に行ったと書いてあるけれど、本当にその時、新宿にその店はあったのか?意外と人は記憶違いをしているものです。
また、主人公がよく出入りする東大の「史料編纂所」。この研究所は昭和の初めまで「史料編纂掛」という名称でした。そうすると、「金雄は史料編纂所へ入って行った」というごく何気ない一行も、大正年間の描写であるなら間違いということになってしまう訳です。一体何年から「編纂所」になったのか?こういった細かいことが無数に出て来るのでした。そして、資料読みと併行して、坂詰秀一立正大学元学長をはじめ、関係者の方々に長時間のインタビューを行うこともしていました。

こうした下準備に、一年半。執筆は一昨年の十二月終わりから始め、第一稿の脱稿までに四カ月を要しました。この期間は一切他の仕事を入れず、人ともほとんど会わず、茶の稽古すらも休み、四カ月間毎日ひたすら規則正しく、朝は11時半頃に起きて、日中は資料読み(書き始めても後から後から気になることは出て来るもので、書きながら読み続けます)。夕食後から書き始めて、12時頃にいったん休憩して、入浴。その後、午前4時頃まで書き続ける‥という生活を続けました。文章の一定の調子を保つために、規則正しい生活をすることは何より重要だ…ということをよく耳にしますが、やはり、自然とそうなって行くのでした。

本当は、第一稿脱稿からすぐ校正に入り、昨年の今頃には出版の運び…のはずだったのですが、諸事情で修正、修正が相次ぎ、その頃には雑誌の仕事もしなければもう生活が成り立って行きませんから、本と雑誌を両方回すことになり…。一年間、一日も休みのないような厳しい毎日を送る羽目になってしまいました(何かしらの食事会などに遊びに出た日でも、夜から朝までは必ず原稿に向かっていました)。
それでも、とにかく書き上げ、校正を終え、ようやくこの世に送り出すことが出来たのです。この本は「依頼」というかたちで始まり、自分の中から出て来た内発的なテーマではないとは言え、百年、いや、創業者の生まれたときから筆を始めているので百三十年ほどの歴史を、群像劇として、多彩な人物を書き分け、資料を読み込んでその真贋価値を判断し、400頁近くにわたり、一本の思想が通った読み物にまとめ上げる体験は、やはり何事にも代えがたく面白く、また、自分の中に眠っていた力に、今、少しの自信を持てるようにもなりました。
ぜひ、書店で見かける機会があったら、お手に取って頂けたら幸いです。

そして、資料読み期間から執筆、校正までの3年間を、いつも温かく応援して下さった友人の皆様、本当にありがとうございました。特に第一稿擱筆以降は、まるで「出る出る詐欺」のように、「もうこれで修正もないだろうから、あと2か月後の発売かな」などと言っているそばからまた修正が入り…ということの連続で本当にお待たせし、時に心がささくれ立っていたときにも温かい言葉をかけて頂いたことが、大きな慰めになりました。深く、深く感謝をしています。ありがとうございました。
なお、著者割引があるため、もしもご購入を頂ける場合には、直接メッセージを頂けたらと存じます。

今、大量の資料を、まだ片づけぬまま机の周りに残しています。何だか再びまた資料を開き、ノートを取らなければいけないような、そんな気がしてしまうのですが…そろそろ本当に別れを告げる時が来たようです。


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