西端真矢

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新しい椅子と、新しい毎日 2023/09/02



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最近、新しい椅子を買った。
デンマーク・ワーナー社のシューメーカーチェアという椅子で、正面から見るとサリーちゃんのパパの髪型のような、不思議な形をしている。退院後、まだ一歩も外出出来ない時期に、目がチカチカするほどネット検索をしてこの椅子を択んだ。そのくらい、どうしても必要な一脚だった。

6月終わりの子宮体がん手術で命を長らえたものの、それと引き換えに、実は、私の体には「リンパ浮腫」という新たな病気の可能性が宿ることになってしまった。子宮、卵巣に加えてリンパ節も摘出したためで、その結果、下半身のリンパ液の流れがとどこおりやすくなってしまった。そうするとこの病気の発症可能性が高まるのだ。
具体的にどのような症状が出るかと言えば、左右どちらかの足が非常に強くむくんでしまう。上手く足が曲がらないなど日常生活に影響が出るし、外見からも一目で分かるほどのむくみだから、心の苦しみも大きい。出来れば発症したくはないけれど、今の医学では完全な予防法はなく、完治の方法もない。なかなかに厄介な疾患だ。
     *
そのリンパ浮腫の予防のために、新しい椅子が必要になった。
私たちリンパ節摘出者には予防のためのたくさんのTO DO LISTがあるのだけれど、その一つが、
「長時間椅子に座る時は、足を上げ、オットマンに載せること」
足を下げっぱなしにしていると、体を上へ上へとのぼっていくリンパ液の流れがとどこおってしまうからだ。

ちなみにTO DO LISTには、他にこんなものがある。
長時間同じ姿勢を取らないこと(一ヵ所にリンパ液が溜まってしまうため)。激しい運動をしないこと。飛行機に乗る時は着圧ソックスを履く。一日一回、リンパ液の流れを良くするために、セルフマッサージも行わなければならない。
2枚目の写真は、今週、病院でそのマッサージの講習を受けた時にもらったプリントだ。これを見ると、なかなかに複雑なマッサージだと分かってもらえると思う。左右どちらの足に症状が出るか分からないから、右半身、左半身、必ず両側に行わなければならない。全体で2、30分ほどの時間がかかる。
     *
そんな事情があって、この椅子を買った。
私の仕事上、PCの前に長時間座ることは避けられない。愛用している椅子とピッタリ同じ42センチの高さで、しかも毎日目に触れるものだから、変なデザインのものは買いたくない。そうやって探し始めると、意外と42センチの高さのオットマンは少なく、しかも良いデザインのものとなると、もうなかなか見つからない。ようやくたどり着いたのがこのシューメーカーチェアだった。

もともとはデンマークの靴職人=シューメーカーが使う椅子で、長時間座っていても疲れないよう工夫する中で、このフォルムが生まれたという。つまり、サリーちゃんパパみたいと思った独特の窪みは、職人のお尻の形なのだ。
けれど私はそこに足を伸ばす。
そして中央のサリーちゃんパパの髪の盛り上がった部分に、ふくらはぎを軽くもたれかけさせて置くのが気に入っている。木の丸みが肌に当たって心地よく、軽く押されることでリンパ液が流れるのか、ふっと足全体が楽になっていく。とても気分がいい。
ネット上の画像で見た時から、そんな使い方が出来るのではないかと思って購入したが、案の定だった。本来の使い方とは違うからデンマークの職人さんはびっくりするだろうか? でも、東洋の片隅で、つらい病気の予防という切実な目的にこんなにも役立っているのだから、きっと喜んでくれるはず‥‥などと思っている。
       *
そんな私の近況は、ゆっくりゆっくりと体力を取り戻しつつあるところだ。
8月10日過ぎ頃から、近所の吉祥寺に買い物に出られるようになって、でも、とてつもなくゆっくりとしか歩けず、疲れてタクシーで帰宅する日もあった。それが、先週、気づいたら普通の速度で歩いていて、
「あれ? 私、みんなと同じ速度だ!」
と、道に立ち止まってびっくりしてしまった。
そうかと思えば日によっては全身がだるく、横にならずにいられない時もあるし、夕方、猫と毛玉ボールを投げて遊ぶのが日課なのだけれど、そのために階段を駆けのぼることが、出来たり出来なかったりする。「走る」という行為はどうやら体にとって非常に大きなエネルギーを要する冒険的営みらしい‥‥と初めて知った。

インターネットで検索すると、同じ手術を受けていても、退院1週間で仕事復帰して元気いっぱいです!という鉄の女性もいる。自分とのあまりの差にため息が出てしまうが、考えてみれば、筋力、心臓の弁の強さ、胃腸の強靭さ‥‥人の体は一人一人まったく違っているのだから、ガタピシと動く自分というこのCPUをいたわって歩いて行くしかないのだろう。

実は、来週から、仕事に復帰する。2か月半ぶりほどに取材に出るのだ。
大丈夫かな、電車に乗れるかなと心配もあるが、たぶん何とかなるだろう。そのために出張美容師さんに家に来てもらい、髪も切って気分一新した(三鷹・吉祥寺で活動されている「結」さん/3枚目写真)。4枚目の写真は、病院に行った日に、ガラスに映っていた自分を撮ったものだ。何だかお忍び外出中の芸能人みたい、とおかしくなって撮った。
こんな風にして、行きつ戻りつ、時々立ち止まったりもしながら、ゆっくりゆっくりと。新しい毎日を歩き始めている。