西端真矢

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お着物の記*究極の秋着物 2010/11/25



今回のお着物日記は、着物を着る最大の楽しみの一つ、「季節をまとうこと」を代表するような装いのご紹介です。

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*祖母が染めた、銀杏の総模様の小紋。生地は綸子地。写真からも地紋がぼんやり分かるかと思います。
着物全体を秋の美しい銀杏で埋め尽くすように染め上げていて、着ているとまさに秋そのものをまっているような自慢の一枚。おばあちゃま、素敵な着物を本当にありがとう‥‥。

*祖母は紅型の染めをやっていましたが、どう考えても伝統的な紅型の型の中にこの文様がある筈はない。祖母の師匠か、或いは祖母自身がデザインを起こして型を彫って、それを染めたものと思われます。こうなって来るともう紅型ではなく、「東京染め」と言って良いかと。配色はもちろん、祖母独自のもの。

*よく見ると葉と葉の間に小さな丸い玉が。これは、銀杏(ぎんなん)なんですね。写真では分かりにくいのですが、上品な銀色に染められています。

*帯は、母が15年くらい前に買って、そのまま箪笥の中にしまって一度も締めていなかったという刺繍帯。名護屋ではなく、洒落の袋帯です。畳紙の中に、帯封付きできれい~に保管されていました。買ったのに着ないなんて、私には考えられません‥‥
大体、母と私は買い物に関しては正反対で、母はその場では目にも止まらぬほどの電撃即決購入。でも家に持って帰って来ると、もったいながってずーっと壁に掛けているタイプです。
私は真逆で、衝動買いすることはほとんどなく、1日2日考えてもう一度売り場に行って、残っていたら買うという熟考派(注*仕事でストレスがたまっているときを除く)。だけど、そうやって延々考えて買ったものは、すぐにでも皆さんに見てもらいたい。買った翌日から着て歩くタイプです。
しかし母の太っ腹なところは、15年もしまっていた帯を「いいわよ、着なさいよ」と私に一番に締めさせてくれたところ。この着物とあまりにも合うので、早く締めたかったんです。ありがとう、ママ‥‥

*帯の文様は、正倉院華紋。正倉院は平たく言えば要するに、天皇家の物置。西暦700年頃のシルクロード各地の文物が大切に保管されて来ましたが、中にはたくさんの布や衣服が含まれていて、そこに織られている文様のことを正倉院文様と言います。現代まで様々にアレンジされて着物の文様として生き残っている‥‥素晴らしいことだなと思います。

*帯締めは藤色がかった銀色。帯揚げは、薄いお抹茶色の絞り。

*この装いで、この秋何回か外出しました。
一番最近は、二人の若手有望建築家の友人をお引き合わせする夕食会。建築門外漢の私ですが、非常に知的レベルの高い建築男子二人の話は、最後は文化論に収斂して行きますから大変に面白い。たくさんの刺激を受けた夜でした。

*あっと言う間に季節はもう冬へと足を踏み入れかかっています。今年はもうこの着物は着収めかしら‥‥。淋しいけれど、季節に敏感に反応してこそお着物の道。来年まで大切に、箪笥の中にしまっておくと致しましょう。

お着物の記*秋のお気に入りコーディネートと結城紬織り元のおばあちゃんの講演会 2010/11/20



ここのところ公私ともに忙しく、日記の更新が滞りがちです。
着物でもしょっちゅう出かけているのですが、なかなか日記の方が追いつけなくて‥‥。

そんな中、今日の日記は、ごく最近着たお気に入りのコーディネートのご紹介と、
今週行った「重要無形文化財・結城紬技能保持者、永井千代子さんの講演会」のお話を。

          *

まずは、秋らしいお気に入りコーディネートのご紹介。

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*お着物は、白の大島紬です。10月8日の日記でも大島をご紹介しましたが、
あのときは黒大島。今回は白地の大島です。
草花の文様が細かく織り込まれていて、一見「野暮ったくなっちゃうかな?」と思うような念入りな仕事っぷりの一枚なのですが、着ると体にすーっと吸いついて来るようで、顔映りも晴れ晴れとするすぐれもの。野暮どころか、着る人を何ともおしゃれさんに見せてくれます。これが大島の魅力と言うものでしょうか?非常に非常にお気に入りの一枚です。

*ほとんどどんな帯でも合う着物のように思いますが、今回は秋らしく黄色地の帯を。
これは、祖母が染めた紅型の帯。松と梅文様なので一番ふさわしい季節はお正月ですが、
こういう日本を代表する植物の場合は、一年中締めていても許されるもの。
(他に、菊や牡丹、桜文様も一年中着て良いとされています)
色のかんじが秋らしいので、「着るなら今でしょ!」と締めてみました。
大島との相性ピッタリです。

*帯揚げは、抹茶色の絞り。そして帯締めを青にしてみたところがポイントです。
コーディネートがきゅっと締まりますよね。
自分的に大のお気に入りの組み合わせ。
知人とのお買い物&お食事の日に着て行きました♪

*ところで10月9日の日記に、「大島は沖縄県奄美大島で作られる紬」と書いてしまったのですが、
沖縄ではなく、鹿児島県の間違いでした。(現在、日記は訂正済みです)
子どもの頃から地理が大の苦手な私。読者の方からご指摘を頂いて気づいた次第です。
改めて訂正します。皆さん、奄美大島は沖縄県ではなく鹿児島県の島ですよー!(←間違えてたのは私だけ?)大島は、鹿児島県が誇る、鹿児島県の伝統技術なのですね。

       *

さてさて、今週、お着物好きならみんな知っている、着物スタイリスト石田節子さんのお店、銀座らくやへ遊びに行って来ました。目的は、講演会。結城紬の織り元・永井千代子さんがいらっしゃり、講演と織りの実演をして下さるというのです!これは行かなければ。

*結城紬は、栃木と茨城の県境の付近で古くから作られて来た紬。
我が家にも一枚ありますが、軽く暖かく、着る人の顔が優しく映るような独特の風合いが特徴で、
大島紬と並び、日本で最も人気の高い紬と言えるかと思います。
今日の日記の前半でも書いたように、大島が着る人をシャープに・スタイリッシュに見せてくれるとすれば、結城は柔らかく・ほっこりと、或いははんなりと見せてくれる紬。どちらも大変に魅力ある紬です。
しかもこの結城紬!ちょうど11月17日に世界遺産に登録されたのですよね↓
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/ibaraki/news/20101118-OYT8T00166.htm
何ともはや絶好のタイミングでの講演会でした!

*さてさて、永井千代子さんは、現在八十三歳。もちろん生まれも育ちも結城地方です。
十三歳のときからお母様について結城紬作りを習い、何と、お蚕(おかいこ)の幼虫を育てるところから始まって→蚕が繭を作るまで育て上げ→その繭を茹で→指で糸を取り→着物の図案を考え→その図案を布上に表現するために糸をくくって→糸を染めて(くくったところは染料が染まらない)→そしてその糸を織る‥‥
普通は分業されるこの全工程を、全て!一人で成し遂げることが出来るという、素晴らし過ぎる、本当に素晴らし過ぎるおばあさまです。

*結城紬は国の重要無形文化財にも指定されていますが、永井さんはその伝技能保持者として認定されています。天皇皇后にも実演と解説をしたことがあるとのことで、正に結城を代表する織り元さん。いや、こういう方こそ日本の底力。日本を代表する職人さんと言って良い方かと思います。
職人と言うと男性が多いものですが、こんな素晴らしい女性の職人さんがいるなんて‥‥もう、同性の誇りとしか言いようがない。何から何まで素晴らし過ぎる永井さんなのでした。

永井さんのお写真は下のらくやさんのブログで↓
http://rakuya.exblog.jp/d2010-11-19/
永井さんの前にあるのが結城紬の機です。

さて、その講演会のときに伺ったお話をランダムに書き出してみますね。

*「なまっててごめんな。天皇様皇后様にご説明しろってなったときに、あたしらは「天皇陛下!」って言われるとこう、びしっ!(気をつけ!の姿勢)となるように育ったから、それが自分が話をするなんて夢にも思ったことがないもんだから、「出来ない」って言ったんだけど、(結城を)全工程出来るのはあんたしかいないからって‥それで標準語を勉強したんだけど、忘れちゃった」
‥‥と、かわい過ぎる永井さんでした。でも、確かに訛ってらっしゃったけれどそれほどでもなく、お話は全部分かりました。

*永井さんの織り方は地機(じばた)と言って、自分の体に糸を巻き付けて畳に座り、そして原始的な機械、機(はた)で布を織って行く織り方です。体の重み全体を使って布を織る訳で、織り込むときは強い力で機を動かしますから、ちょっと痛いのだとか。
「経糸(たていと)の痛みを体で受け止める。そして横糸を織り込むときに心を入れる。糸と糸との間には空気を入れる」
これが織るときの心の持ち方。この心で織らなければいけないのだそうです。空気を入れる、これを意識することが大事だとのことで、横糸を織り込むときに、少し山形になるようにセットして、そして織り込んでおられました。こうすると糸と糸の間に空気が入るのだそうです。大変に大変に微妙な世界です。

*型通りに織ることは出来るけれど、それではダメ。見ればすぐ分かるそうです。
「何か怒ってることがあるときは、(糸の)打ち込みがすーっごく強くなり過ぎちゃう。それで反物が出来上がると、怒ってるときの所だけ目がきーつくなってて、他は優しく織れてるから(バランスが悪くて)ダメ。「あんた、ここんところ織ってるとき何かあった?」「何で分かるんですか?」ってなるのよ。心が目に見える形に現れる。目で見えるようになってなきゃダメ(=本気で織っていない、という意味だと思います)」
だからこそ、心の状態を無にして機に向かわなければならないのでしょう。深過ぎるお話でした。

*蚕を大切に大切に育て、その蚕を茹でる、つまり殺してしまうときはいつも、「ありがとう」と蚕に感謝して鍋に入れるのだそうです。これもあまりにも深過ぎるお話でした。

*その他にもたくさん心に残る話があって、そもそも一つの道を極めた人である永井さんという方の存在そのものが、いぶし銀のような強い強い光を体全体から放っていらっしゃいました。聞いていると時々涙が出そうになって。実際、熱心にノートを取って講演を聞いていた染織好きらしき女の子など(服のかんじからデザイナーさん?と推測しました)、しきりにハンカチで目を拭っていました。
「本物」の力は素晴らしいです。あの女の子が先生の話に感銘を受けて、結城紬の道に入ってくれないかなあ‥‥などと夢想する私でした。

*そんな永井さんが織る結城紬は、最低でも100万円。高いものは300万円くらいはしていました。
そりゃあ、そうです。
糸。あの細い糸を床に一本、自分の前に横向きに置いたと想像してみてください。
そのすぐ上に一本、そのすぐ上にまた一本、また一本、また一本、また一本と重ねて行く‥‥
要するにそれが、布を織る、ということなのですよね。それをぜーーんぶ原始的な機械を使って手でやって、一反の布に織りあげるのですもの。高くなるのは当然だと思います。

*永井さんの反物はまた図案も素敵で、名人ならではの何とも言えない匂いのようなものが布から漂っていて‥‥ああ、一枚ほしいなあ‥‥と。でも、最低でも100万円。とてもとても買えません‥‥
逆に、お金持ちの人は、どんどんこういう会場に来て、永井さんや、他にもいらっしゃる名人の方の着物、買ってほしいなと思います。
そう、洋服やら外国ものバッグやらばかりにお金を使うのではなく、日本人なら着物!着物を買ってもらいたいものです。私は、お金持ちには、「お金を使う義務」があると思っています。日本の伝統技術を残すことに自分のお金が役立って、しかも楽しくきれいになれるなんて(男性の場合はかっこよくなれるなんて)、着物ほど素敵なお金の使い道もないのではないでしょうか。
‥‥かく言う私も、永井さんのものではないにしろ、会場で見かけた或る反物に目が釘付け。永井さん作よりはもちろんグーーーッとグーーーッとお安いのですが、でも私には高い。買おうかな‥‥うーん。


「秋風沈酔的晩上」 2010/11/07



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(中国語日記の後に日本語での日記が続きます。内容は同じです)

今天我看了婁燁導演的最新片子「春風沈醉的晚上」。
它的日方宣傳公司在電影院裡交給我們的徵詢意見票上有了「請隨便寫這部電影的感想」的問題。我覺得這是一種很難回答的答案。
因為上次看婁燁的作品的時候也一樣、他的片子、剛看完的時候我對它一切沒有什麼感想。反而過了兩、三天後、慢慢地浮現過來 「對。人生就是那樣過」 的感受。
婁燁的電影、也許、跟人生太相似。如果有人突然來我家每天一直追我拍攝我的生活而把它銀幕上放的話、剛看完之後我能夠擁有什麼感受呢?婁燁的作品就這樣存在。我很崇拜他。

今日、私が世界中で最も好きな映画監督の一人であるロウ・イエの最新作『スプリング・フィーバー』を観て来た。
映画館で配られていたアンケートには「この映画の感想をお書き下さい」という項目があって、私はそこではたとペンを止めてしまう。何故なら、前作の『天安門、恋人たち』もそうだったのだけれど、彼の作品に対してはいつも観た直後には何一つ感想が浮かんで来ないからだ。‥‥けれど、何日かが過ぎると、「そうだよね。人生って、あんな風に流れ流れて行くしかないものだよね」という静かな思いが浮かんで来る。
たぶん、ロウ・イエの映画は、人生にあまりにも似過ぎているのだと思う。自分の人生の一時期を誰かに来る日も来る日も撮影されてそれがスクリーンに映し出されるのを観たとき、人はとっさに感想など語れるものだろうか?ロウ・イエの映画はそんな風に存在している。

*ロウ・イエ=婁燁
*『スプリングフィーバー』原題=『春風沈醉的晚上』。春風も酔う夜、といった意味。
*『スプリングフィーバー』公式サイト(予告編有り) http://www.uplink.co.jp/springfever/index.php