西端真矢

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国宝ハラスメント 2025/06/22



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最近、ハラスメントを受けている。
私はそれを〝国宝ハラスメント〟と名づけてみた。
そう、映画『国宝』が巻き起こしている熱狂のことである。

朝、SNSを開くと、インスタグラム、フェイスブックのタイムラインに『国宝』の感想がずらずら並んでいる。しかもすべてが長文だ。誰かに感動を伝えずにはいられない。いてもたってもいられない。そんな思いが携帯の狭い画面に、白い行間にほとばしっている。

仕事や会合へ出かければ、もう観たか、観ないかが話題に上る。上映開始からまだ二週間ほどしか経っていないのに、既に二回観ている人もちらほらいることに驚かされる。観ていない人も、「来週予約してるの」「明日行くんだ♪」と楽しそうだ。
更にラインやメッセンジャーに、真矢さんはもう観た?今日時間出来たからふらっと行こうかと思うんだけど、などと連絡が来る。
どこまでもどこまでも『国宝』である。

私は仕事柄、日本舞踊や長唄の本職の方、また、年間ほとんどすべての演目を観ているような歌舞伎通の方々とも仲良くさせて頂いているが、彼らもみなSNSに思いをつづっている。もちろん、長文で。よほど素晴らしい作品なのだろう。

     *

そんな『国宝』を、私もすぐさま観に行きたいと思う。なのに、行くことが出来ない。
約二年前の手術の後遺症で、腸の位置がどうにも定まらず、長時間同じ姿勢で座っていることが難しいためだ。
途中で気分が悪くなって倒れたりする可能性が考えられ、二の足を踏んでしまう。

手術後、一本だけ、映画を見に行った。
その時は事前に映画館に電話をかけて混みぐあいを訊ね、ガラガラだと分かった上で、更に、いつでも外に出られるように出口のすぐ横の席に座った安心感で無事に過ごすことが出来た。しかも上映時間は『国宝』の半分ほどだった。

『国宝』の3時間という長尺。更に全席満員で身動きが取れない状況。健常者ではない私にはあまりにもハードルが高い。
すいて来たら行こう、と悲しくため息をついていたが、ふだん映画を観ない層も詰めかけている上に、二回、三回と観る人もいることを考えると、すいて来るのは秋頃だろうか。泣きたくなってしまう。
もう私に『国宝』の話はしないで!こんなの国宝ハラスメントだよ!映倫に?訴えるぞー!

‥‥とヒステリーを起こしていたが、先週、取材の現場で会ったヘアメイクさんに「プレミアムシートで観ればいいんだよ」と教えてもらった。
すっかり時流に乗り遅れていてその存在を知らなかったのだけれど、主要駅の旗艦映画館に、一席7千円~1万円ほどで広々ふかふかのソファ席、リクライニング自由、しかもオットマン付きという豪華シートが用意されているのだそうだ。

これなら姿勢が変えられるし、特に私にとっては、オットマンが何よりありがたい。
手術の際に腹部のリンパ節を取っていて、そのせいで脚のリンパ液の流れがとどこおりがちになり、足をただ下げたまま自由に動かせない状態で長時間座っていると、非常に重だるくなってしまう。その重だるさが姿勢に影響して、その影響が腸に響いて大不調を起こす。
リクライニングソファ+オットマンなら、この現象を回避出来る可能性は、限りなく高い。

     *

こうして『国宝』鑑賞に希望が見えて来た。
映画一本に1万円とは、富豪ではない私の感覚では鼻血ものだけれど、どうしても熱狂と同時進行に観たいのだ。配信ではなく、映画館の大きなスクリーンで。一番安心なのは3万円の個室貸し切りだけれど、さすがにそれはやめておこう。

プレミアムシートやスーパープレミアムシートには専用ラウンジがあり、上映前には夜景など見てくつろぐことが出来るらしい。都内どこかのプレミアムラウンジにたたずむ私を見かけても、けっ!キラキラリア充アピールか、などと罵らないでほしい。港区女子的ギラつき感ゼロ、決死の努力でたどりついた私がそこにいるのだから。