西端真矢

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手術、入院と連載休載のお知らせ 2023/06/26



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むしむしとしたお天気が続く中、更に鬱陶しい話題を持ち出すことをお許しください。私の体調と仕事の現況について、お知らせをさせて頂きます。

春の初めに子宮に病気が見つかり、ここまで様々な検査を続けてまいりましたが、明日27日より入院、明後日28日に手術。その後10日間ほど入院を致します。
病名は、「子宮体がん」です。
ごく初期のがんで転移もないため、すぐさま命に関わるものではないことをまずはご報告致します。

     *

病気発見までの経緯をお話し致しますと、実は、一年以上前から、だらだらと生理が終わらない、不正出血が続いていました。
ただ、私の年齢はちょうど閉経の時期に当たり、前後には著しく生理が乱れるという話をよく耳にしていたため、自分もその一人なのだろうと思っていました。昨秋までは亡き母の介護に必死で、自分のことは二の次、三の次になっていたという事情もあります。

そんな中、今年に入ってから出血量が多いことがあり、それでもまだ高をくくっていたのですが、3月初めのある朝、目覚めてベッドで体を起こすとふっと意識が遠のき、そのまま床に落ちてしまいそうで、これはもう、救急車を呼ばなければいけないかも知れないと思ったほどに大量の出血をしていました。貧血症状を起こしていたのです。
さすがにただの更年期障害とは違うのでは?と考えを改め、近所の婦人科クリニックを受診しました。それが病気の発見につながったのです。

     *

クリニックの超音波検査で子宮の様子を見た先生の第一声は、
「これは内膜が相当厚くなってるな」
というものでした。
私たち女性は、毎月、子宮に「子宮内膜」という膜を作って妊娠に備えます。着床がなければその膜は、月経として体外に排出される。ところが何らかの理由で卵巣が大量に膜を作るよう指令を出してしまい、しかもその膜が子宮に残り続けることがあるのだそうです。ただ残っているだけなら無害ですが、そのような余分な内膜はがん化してしまうことが多く、よく調べる必要があるということでした。

そこで、ゴールデンウィーク前までに「細胞診」「組織診」という二つの検査を行い、内膜の状態を調べました。
婦人科のあの大股開きの椅子に座るだけで誰しも憂鬱になるものですが、特に「組織診」では、股の間に金属製の匙状だかブラシ状だかの、要は刃物を入れて、内膜を数カ所、切り取ってラボに送るのです。医療行為でなければ、まさに、変態の拷問。絶叫するほど痛みを感じる人もいるということでしたが、幸い私の場合はさほどでもなく、何とか検査を終えることが出来ました。

     *

そして、ゴールデンウィーク明け、忘れもしない5月8日にクリニックへ伺うと、先生から「子宮内膜異型増殖症」です、と告げられました。
内膜の細胞はがん化していないものの、健康な細胞とは少し違う「異型」の形状が見られ、今後がん化する可能性が非常に高い。ステージ0、前がん段階にある、そのような病気だということでした。
標準治療は、子宮の摘出。がんになる前に取ってしまう、という考え方です。この時点で手術が決定しました。先生が三鷹の杏林大学附属病院の婦人科と密接につながりを持たれていることから、即、紹介状を書いて下さり、杏林で手術を受けることが決定したのでした。

     *

ところで、この「子宮内膜異型増殖症」には、一点、留保の項目があります。
組織診では内膜の数カ所を切り取るだけで、すべての細胞を検査するわけではないため、もしかすると「異型」ではなく、本当にがんに変わってしまっている細胞が、内膜内の他の場所に存在しているかも知れないのです。実際、手術後、摘出した子宮を検査すると、50パーセントほどの確率でがんが見つかるということでした。

杏林での私の主治医は女性の医師で、短髪のボーイッシュな外見。もしかしたら帰国子女かな?と思う、キッパリ、ハッキリとものをおっしゃる方です。
治療の方針も、術前に可能性を徹底的につぶす、という帰国子女的、合理的なもので、再び大股開きに刃物の組織診(泣)、MRI、そして、やはり内膜を全部調べたいというお考えで、急遽、6月19日に「子宮内膜全面掻把術」という日帰り手術を受けることになりました。

これは、静脈麻酔をかけて行うもので、子宮内膜をすべて体外に掻き出してしまうという、聞くだにすさまじい手術です。そうやって掻き出した内膜を、普通は2週間ほどかかるところを私の場合は術前ということで、超特急でラボが精査。本当に1ミリもがんが存在していないかを確定するのです。
手術自体は麻酔をかけて行うので痛みはないのですが、麻酔が合わず、術後数時間、激しい嘔吐が続き、地獄の苦しみを味わいました。手術より麻酔の方がつらい、という人が数パーセント出るそうですが、まんまと私もその一人だったのでした。

     *

さて、二日後、この検査の結果が出ました。そして、やはりがん細胞があった、と告げられました。それまでの私は「前がん段階」にいましたが、もうその段階ではない。私は「がん患者」なのです。
ただし、ごく初期のものであり、おそらく体の他の部位にも転移していないだろう、とも同時に告げられました。
もちろん、医師は「だろう」のまま手術に突進する訳にはいきません。急遽、PET-CTという特殊な検査を受けてもらう、と言われました。全身を精査して転移の有無を確定するのです。23日、金曜日のことでした。結果が出たのは、昨日、25日。結果は、転移なし。
ここに至ってようやく術前検査が終了したのでした。

‥‥杏林に移ってからここまで1カ月弱の間に、一体、何回検査をしたのでしょうか。
あまりに検査が多く、その度に股の間に刃物を入れ、腕から造影剤を入れ、体力を消耗してへとへとになり、今はもう、「やっと入院出来る!」と嬉しくなるほどに(泣笑)、疲労困憊の日々でした。
ともかくこのような経緯を経て、私の病状は正式に確定したのでした。

     *

「ステージ1」「ステージ2」などというがんの区分を、多くの方が聞いたことがあると思います。1から4まで、がんには4段階の進行ステージがあり、更にそれぞれをa、b2段階に区切ります。
私のがんは、「ステージ1a」。最も初期段階のがんであると確定しました。
今の段階で取れば、今後の生存率は非常に高い。ただし、子宮内でのがんの範囲がそこそこ広いため、子宮のみならず、卵巣、卵管、骨盤内のリンパ節をすべて摘出します。
術式は、「ロボット手術」。ふざけてるのか?と言いたくなるようなSFアニメ的名称ですが、これは略称で、正式名称は「低侵襲ロボット支援下腹腔鏡手術」。医師ではなく「ダ・ヴィンチ」というロボットアームが切ったりはったりを行う、最先端の術式です。

医療ドラマでは、よく、医師がお腹を切り開いて「メス!」と告げる場面がありますが、この術式では、切開ではなく腹部に小さな穴を6カ所ほど開け、そこから極細のロボットアームが体内に入り、手術を行うのだそうです。
そのアームを後ろにたどって行くと医師の手があり、送られて来る画像を見ながら、アームを動かす。その手の動きがアームに伝わって患部を切り刻むというシステムです。何だかね‥‥ゲーセンみたいだよね、と思ってしまうのは私だけでしょうか。
しかし、ロボットの方が人間の指より繊細な動きが出来ること、また、切開をしないため体の負担が少ないこと。この術式にはそのような大きな利点があります。入院は、何と切開の場合の半分の期間で済むとのこと。杏林大学病院婦人科ではロボット手術の実績が多くあることから、安心して臨んで良さそうです。

     *

手術が決まった時、まず頭に浮かんだのは、もうすぐ十五歳になる老猫、チャミのことでした。
母が亡くなった後、私にべったりのチャミは、「お母さんがいなくなって、今度はお姉ちゃんまで僕の前から消えてしまったの?」と思ってしまうのではないか。何しろ猫には言葉が通じないのです。そしてその精神的ショックがもうおじいちゃん猫のチャミの心身に、大きく響くのではないか。そう考え出すと心配で心配で涙が流れます。
もちろん、手術への不安もあります。医学的にはそう難しい手術ではない、先生方にとってはきっと日常の手術なのだと思いますが、それでも、世の中、何が起こるか分からない。19日の「全面掻把術」手術の前夜にも、たまらない不安がありました。こんな時に母と話せたらな、と思いますが、母はもうどこにもいない。人生の哀切をしみじみと感じています。
     *
それでも、友人たちには大変心を慰められました。
病気を伝えると、「入院、退院に付き添える」と言い出す友人(いやいや、うちには父がいるので大丈夫だから‥)。
退院後の買い物を手伝うよ!と申し出てくれる近所の幼馴染や、「お見舞いに行く!こっそり美味しいもの持って行くから!」と張り切ってくれる友人。
「入院中の下着の洗濯など、引き受けるよ。車で行けば、意外と近いから」と真顔で書いてくる友人。いやいや、あなたの家、鎌倉だよね。‥‥泣き笑いしながら、友情を噛みしめました。
‥‥ただし、コロナ対策のため、杏林大学病院の婦人科病棟は、全面、面会禁止。家族すら面会は出来ません。これから10日ほどの入院期間を一人で過ごしていくことになります。

     *

そして、仕事の関係者の皆様にも大変温かい対応を頂きました。
現在、私は『美しいキモノ』と『クロワッサン』の二誌で連載を持っていますが、両編集部とも、無理をせず休載にしましょうと快く認めてくださいました。
そのため、『美しいキモノ』での『美の在り処』は、次号秋号では一回休載となります。
また、『クロワッサン』の『着物の時間』は、一回か二回、別のライターさんに立って頂くことになりました。
両連載とも、スケジュール上からは休まず続けることも出来なくはなかったのですが、心身ともに非常な無理をすることになり、正直を言えば、心底休みたかった。それでも自分からは言い出せずにいたところを、両編集部とも「治療が第一です」と、休載、代役ライターを提案下さったことに、心から感謝を申し上げます。

     *

このようなことで、今年の夏は、治療と休養に専念致します。
ホルモン分泌に関係する器官を摘出するため、術後にめまいなど体調不良が続くことも考えられ、八月いっぱいほどまでは安静に過ごす予定です。
なかなかつらく、そして静かな夏となりそうですが、考えてみれば、婦人科を受診するきっかけになった3月初めの大出血の少し後から、不思議なほど出血はぴたりと止まり、もしもあの日、あの朝の大出血がなければ、「閉経したのだな」と思って婦人科には行かず、そのままがんが進行していたことに思い当たります。
そう考えれば、あの朝の大出血は私の命の分岐点であり、そして、私はベッドの枕元にいつも母が最後に着ていたキャミソールをたたんで置いて寝ているので、
「あなた、がんよ!病院に行ってちょうだい!」
と、母が出血を引き起こして知らせてくれたようにも思えます。
この知らせを大切に、治療と静養に努めていきたいと存じます。どうぞ皆様、良かったら、28日の手術の成功を祈ってやってくださいませ。


*写真は‥‥
右上が、入院中に読書予定の本たち。これらすべてを読了は出来ないかな。
その下は、病院推奨の室内履き。杏林大学病院では、スリッパは禁止。必ずかかとのある室内履きを履くきまりになっているため、新しく購入しました。家で試し履きしてみたところ、フェルト製で、なかなかに快適です。
左下は、杏林大学病院の建物の一部を撮ったもの。一つの街のように巨大な病院です。
そして、左上が、チャミ。午後はたいてい和室で、私が特注したチャミ専用の座布団(二枚重ね!)に座り、庭を眺めながらうとうとしています。10日間、こうやって私の帰りを不安の中で待ち続けるのだな、と思うと胸が締めつけられるようです。

*一部の友人と仕事関係者の皆様には、「子宮内膜異型増殖症」と病名をお知らせしていましたが、本文に記しましたように、19日の検査でがんが見つかったため、「子宮体がん」と変わりましたことをご理解ください。

*コメントやメッセージを頂きました場合、今は術前術後の体調管理に専念したいため、お返事は出来ないことをご理解ください。すべて読ませて頂き、「ハートマーク」だけ押させて頂きます。

*本文にも記しました通り、杏林大学婦人科病棟は、現在、コロナ対策で全棟面会禁止のため、お見舞いに来て頂くことは出来ません。