西端真矢

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胸ときめきくバッグと和歌のこころと 2024/06/05



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三つ前の投稿で、手持ちの、太田垣蓮月の和歌の短冊をご紹介した。崩し字で書かれていて私には読めないため、分かる方がいらしたら教えてくださいと書いたところ、お友だちがすぐに読み下してくださった。
気になっていた方もいらっしゃると思うのでご紹介したいと思う。
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たび人のかつぐひとへのひのきがさ
うちぬくばかりふるあられかな

漢字にすると、

旅人の担ぐ一重の檜笠
打ち抜くばかり降るあられかな

信州の名産で、檜で作る「檜笠」という笠があるようで、その笠を打ち抜かんばかりにあられが降る情景を詠んだ、なかなかに激しさのある歌なのだった。
そう言えば、広重の「東海道五十三次」にまさに同じ画題があったことを思い出す。二人は同時代の人だから、無意識に、幕末という激動の時代の美意識を通底させていたのかも知れない。もちろん、蓮月が広重の浮世絵を見ていた可能性もある。
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さて、そんな、崩し字をすらすらと読み解いてしまう麗しき教養人に会いに行って来た。
観世あすかさん。
冒頭では話を進めるために〝お友だち〟と書いてみたが、私のような無学の者が友だちなどと名乗るのはおこがましく、知人の末席の末席におずおずと座らせて頂いている。あすかさんは日本の古典芸術全般に通じられた美術商で、同時に、「アトリエ花傳(かでん)」という一点もののバッグブランドを主宰されている。以前、私のブログでもご紹介したので覚えていらっしゃる方もいるだろうか。

その花傳のバッグにずっと憧れがあり、私も一つ持ちたいと願っていた。コロナ禍や自分の病気で延び延びになっていたけれど、ようやくアトリエにお邪魔出来るはこびとなり、生地など見せて頂きながらオーダーのご相談を、と思っていたら‥‥一目惚れの子に出会い、そのままお迎えするという疾風怒濤の展開が訪れたのだった!その子(と呼びたくなる)が、こちらの一点だ。
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今はもう織られていないというリヨン製の最上質のグログラン生地に、手芸作家下田直子さんのビーズレースが縫い留められているという贅沢。レースはココリコ(雛芥子)の花のモチーフで、可憐でありながらどこか凛と、強い。
この二つの最高の素材が焦げ茶×白という配色で並び立ち、更に、ハンドルと側面部分に藤色の布が当てられている‥‥という、この配色の飛躍に私は最も心をつかまれた。
もともと紫系統が好きで、その紫が、常識的な黒や白やピンク系の布ではなく、焦げ茶色にめあわされているところに激しく胸がときめくのだ。
更に降る雪のように白のレースが加わって、三色が拮抗している。美しいものを知り尽くしたあすかさんによる、色の飛躍の冒険に魅せられてしまった。
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中を開くと、内布には赤茶色の花模様の布が張られている。
こちらはフランスのトワルドジュイと呼ばれる生地で、ブルボン王朝に代々生地を納めてきた生地店「メゾン・シャールブルジェ」の制作だとのこと。マリー・アントワネットが小トリアノン離宮の装飾に好んで使用した生地と言われ、当時から続く伝統的な手法で作られているのだそう。

隅々まで美意識のみなぎった、「ル・ココリコ」と名づけられたこのバッグ。きものにも洋服にもふさわしく、頭の中でコーディネイト妄想が始まっている。依然としてぼんやりとした体調不良が続く毎日ではあるのだけれど、美しいものは人を元気にしてくれる、というよく言われる真実を改めて実感している。