西端真矢

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猫の手術 2024/01/15



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11月の終わり頃、我が家の白猫チャミの左前足のうめばちの一つが大きく腫れていることに気づいた。慌てて病院に連れて行くと、先生は、悪性腫瘍、つまり、がんではないかと言う。
すぐに組織を取る検査を受けたが、異常は認められないという結果が出た。けれど先生は出来ればもう一段詳しい検査をした方がいいと薦める。悩んだ末に、12月の終わり、うめばちの一部を小さく切り取る検査手術を受けた。チャミはもう十五歳のおじいちゃん猫だから体に負担は大きいし、臆病者で気持ちの細やかな子だから、帰宅後数日は見たこともないような険しい顔つきになってしまった。いつも隙あらば私の膝に乗ろうと狙っているのに、「一人で寝たい」と、隣りに敷いた電気毛布の上で寝ることを択ぶ。安定した場所で寝たいんだね、切ったところが痛むんだね、と胸が張り裂ける思いだった。
     *  
その後体力は回復して年末年始は元気に過ごせたが、年明けすぐに検査結果が出て、やはりがんだと告げられた。ただしまだ初期のステージで、血管に浸潤は見られず、先生の見立てでも、今切ればがんを絶やせる可能性が高いという。
それで、一昨日、手術を受けた。
朝病院に預けて午後に手術を受け、その日は病院に一泊する。チャミのいない家はがらんどうのようで、いつも座っている座布団に残っている窪みを見てため息をつき、そしていつもの日と同じようにドアを少しだけ開けておいたり(別の部屋から私の部屋来た時に、すぐに気づいてあげられるように)、庭に出る時にこっそり足音をひそめたり(僕も出たいと飛んで来るので)、そろそろ水を取り替えてあげなきゃ、と思ってしまったりする。自分の行動のすべてがチャミを前提にしていることに気づかされる。
     *
夕方、一人、吉祥寺に出て夕食を食べた。
とにかくチャミが私にべったりだから、いつもたとえば仕事で難しい取材を終えた日の帰り道など、本当はどこかで軽く食べて気分転換したいのに、結局駅ビルでタイムセールのお弁当など買って猛ダッシュで帰宅する。
だけど今日は何しろチャミがいないのだ。憧れの〝吉祥寺一人晩ご飯〟が出来る。それでわざわざ吹雪いているのに街へ出て行って、好物の「点心茶室」の志那そばを食べてみたりした。そして帰り道に病院の前まで行って、しばらくたたずんでいた。ストーカーさながらにじっと窓を見つめ(幸い雪はもう止んでいた)、本当は、
「チャミちゃーん、お姉ちゃんここにいるよ!頑張ったね!明日必ず迎えに来るからね!」
と呼びかけたいのだけれど、朝、病院に置いていく時に「夜、お外から励ましに来るからね」とぶつぶつ涙目で話しかけているのを先生に聞かれ、
「あ、それは止めた方がいいな。声が聞こえるのにどうして迎えに来てくれないんだろうってパニックになりますから」
と釘を刺されてしまった。どうやら入院の夜に病院の前に来るバカ飼い主は私だけではないらしい。それで、無言で、しばらく窓をじっと見つめる。そして帰宅した家はしんとしていて、失恋した日の夜のようなのだった。
     *
幸い手術は成功して、翌日、昨日の朝、迎えに行った。
前回の手術の時と同様チャミはやはりとても険しい顔つきで、びっこを引きながら家の中を一通り歩き回った後、ここ!とこの季節には過ごさない二階の寝室のソファで眠り始めた。ふだんなら夕方3時を過ぎると、
「お膝乗りしたーい!」
とにゃーにゃー騒いで畳の部屋で私が伸ばして座った足の間にどかっと入って熟睡するのに、呼びに来ることもない。やはり一人で眠りたいようだった。
それでも、時々こっそり様子を見に行くと、必ず目を覚ましてエリザベスカラーから顔を伸ばすようにして手に顔をすりつけて来る。いつものようにおでこにチュッをしてあげるとゴロゴロ喉を鳴らし、食事もよく食べ、水もよく飲んでくれる。明け方には自力で一階まで降りて、立派にトイレもした。階段を上る力は尽きてしまって、無言でじっとたたずんでいるのがたまらなくいじらしい。もちろん抱き上げて一緒に寝室に戻った。
今日の昼間は一階の居間で、いつもの日と同じように日向ぼっこをして眠り、今はまた二階に戻り、一人で眠っている。だいぶおだやかな表情に戻って来ている。
     *
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チャミの左手を見るのはとてもつらい。
うめばちだけではなく小指までまとめて切除したから、手がずいぶん細くなってしまった。今は手術のために毛も剃っているから、ぷくぷくとかわいかった左足はまるでヨーロッパゴシック建築の悪魔の彫刻のような、尖った怖い前足に見える。でも毛はまたすぐ生えて来るし、これであと数年、命が延びたのだ。
「小指一つなくなったって、元気に走り回っている猫ちゃんはいくらでもいますよ」
と先生も言っていた。きっとチャミもすぐ慣れてくれるだろう。

ただし、心配もある。手術前の血液検査で、腎臓の数値が大分悪くなっていることが分かった。これからは療養食に切り替え、自宅での注射もしていかなければいけないのかも知れない。残された時間ももうあまり長くはないのかも知れない。
とにかく、今は私のところに帰って来てくれた。家がいつもの家に戻り、丸くやわらかくふっくらとした何かに満ちている。ドアはいつも細く開けて、庭に出る時は抜き足差し足で。おでことおでこをいっぱいごっつんこして、一日一日を過ごす。お帰り、チャミ。
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